企業理念インタビュー 「新しい理念で 何が変わるのか」
2016年8月19日
昨年9月に創立10周年を迎えた第一実業ビスウィル株式会社。2011年に「ビスウィルの理念」を掲げさまざまな取組みを実践しているが、この8月1日、新しい企業理念が誕生した。そこには、2015年4月に2代目代表取締役社長に就任した松川忠行の想い、経営陣そして社員の想いが表明されている。
3回にわたり、新しい企業理念に向けた想いと決意を経営陣3名がリレー形式で語る。
A. その話をするには、私の営業時代から社長就任に至る道のりを説明する必要があります。
ビスウィルの社長を拝命する前は、商社である親会社の第一実業株式会社で検査機の営業を25年やってきました。先輩が築いて来られた多くのお客様との良好な関係を維持しながらも、自分でお客様を開拓していく方に燃えるタイプでした。携帯電話がない時代、電話帳で製薬会社の電話が1160社も載っているのを見つけて、「新規開拓する社が1160もある。全部、お客様になっていただける可能性がある!」とワクワクし、片っ端から電話をかけたこともあります。絞れるところまで知恵を絞り出し、早朝から夜遅くまで営業車で走り回りながら開拓してきました。それが私の30代。ほかに何をしていたか思い出せないほど、仕事に没頭しました。営業が大好き、そして検査機が大好きでした。
~ 大好きな検査機事業をさらに成長させたい ~
そんな中、毎日のように顔を合わせているビスウィルに、違和感を覚えるようになりました。社員は皆とても優秀なのに、中々問題が解決しない。なんとなく社内に停滞感がある。伝統もあり、高い技術力を持っているのに、自分の力を信じきっていない、出し切れていないといったことです。
第一実業が医薬品事業に参入できた最大の理由はカネボウ(第一実業ビスウィル株式会社の前身)との付き合いがあったからこそ。その付き合いも、そして何よりビスウィルという会社を大切に継続していかなければならない。お互いを上手く活かしていくにはどうしたらいいか?私が変えることができるなら、変えて行きたい。自分が大好きな検査機を、検査機事業をさらに成長させたい、という強い想いが自分を支えていたのです。そして、それが自分をここまでにしてくれた恩返しだと考えました。「外野から評論家のようなことを言ってるだけではダメだ。自分からベンチに入ろう」という想いに突き動かされ、昨年4月に代表取締役社長の任に就かせていただきました。
就任時には、社員を鼓舞するために「世界一の外観検査機総合メーカーになる」との経営方針を打ち出しました。韓国に製造拠点を作ったり、創立10周年記念を迎えて気持ちをまた新たにしたり、さまざまな行事をこなしたりとイベントとしての変化点はいくつもありました。ですが、ビスウィルの「企業理念」が私の中でずっと引っかかっていたのです。とても良いことが謳われているのですが、キーワードが入っていないために曖昧な点が多く、企業理念として違和感を強く感じていました。
~ 方向性を定め永続させるには いま明確な企業理念が必要 ~
そんな折、今年の3月に経営陣とビスウィルの今後をどうするのかを缶詰状態で話し合う場を作りました。その際に「人はなぜ働くのか?」という原点的な問いを設定したのですが、そこから得られた答えは、「今やるべきことをやらないといけない。ずっとその想いがあったのなら、やろう」。原点回帰ができました。
時代の移り変わりにより事業は変わる可能性はありますが、支えている部分は変わらない。それが企業理念だと思う。企業理念が不明瞭であれば、戦略や方針がぶれる。社員の個々の価値観や考え、想いを、会社としてまとめていく必要がある。その方向性が企業理念だと思う。想いをまとめるには、わかりやすく皆が同じ理解になることが大事で、曖昧さをなくすにはどうしても以前からの企業理念を変える必要がありました。そしてそこを起点に社員を守り会社を永続させる、次の世代につなげるのが私の最大の使命だと思っています。
~ “自分が果たして行くのだ”という気概 ~A. 「行動指針」の冒頭に入れたことに意味があります。
「使命」や「目指す姿」に入れると重たくなり過ぎる。30年近く仕事をしてきて痛感するのは「信頼は一瞬で無くすが、信頼を築くのは一生かかる」ということ。社員はみんな頑張ってくれていますが、まだまだまだ受身。自分を鼓舞し、自分で率先して使命を果たし、目指す姿を実現していくには、「危機感」という言葉が必要なのです。皆がそれぞれの立場や役割の範囲で危機感を持って行動してほしい。その気持ちを込めました。
A. モノづくりの会社ならではのチームワークを活かしたかった。
そこで、誰に手伝ってもらうのが良いかと考えたとき「風土改善委員会」が頭に浮かびました。当社の風土を良くしていく、会社が進むべき道、進もうとしていく道と風土改善委員会の活動は直結すると思いました。今までの企業理念にある感謝や原理原則、という意味合いは守りながら、新しい企業理念の浸透を視野に入れると、経営陣以外のメンバーの知恵を借りることは不可欠だと思いました。また、社員皆の企業理念なので、社員全員で考え、作りたかったのです。全社員へのアンケートのアイデアも委員会メンバーから提案してもらいました。トップダウンではできないことができたと思っています。
A. もう、全部好きです。難しい質問。答えられないな。
最大のキーワードは「お客様を笑顔にします」。理念を作り変えていた当初は、「貢献する」や「存在意義とは」といった言葉を前面に出したいと思っていましたが、「貢献する」って何だろうかと思いを馳せました。
自分が貢献している気持ちでいても、相手が何とも思っていない、ということもある。相手のリアクションでわかるのは、笑顔。笑顔しかない。笑顔は嘘をつかない。会社ができることを、自分ができることをやって、お客様も自分も笑顔になる。それが最高の関係だと思う。それを回していくことで、世界一にもなれる。売上の拡大もついてくると考えています。今、最高の企業理念ができたと満足しています。
<取材後記>
幼少時代は、奈良県の牧歌的な町でのびのび育った。子供の頃から「やるべきことは先にやっておきたい」タイプで、夏休みの宿題も最初の1週間で終わらせ後は思う存分遊んでいたという。当時は今のようにゲーム機も無く、遊びは全て手作りの時代。
社会人になり、憧れの商社で営業職に夢中になる中で、もともと備わっていた開拓者精神が開花。現職に就いたのも、企業理念を変えるに至ったのも、原点は、「仕事が好き」「人が好き」「検査機が大好き」という極めてシンプルな気持ち。その気持ちを持ち続けながら、「やるべきことを先にやる」(=理念を変えて方向性を統一すること)には慎重に、その場の状況やタイミング、そして自分の経営者としての気持ちと覚悟を1つひとつ確かめてきた。
これで経営陣も社員ものびのびと仕事に邁進することができるか。後は信じて行動あるのみ。
第2回に続く。
以上